去年末頃だったか、アウトドアブランドで有名なパタゴニアの日本法人から連絡が来ました。何かと思えば、映画の相談でした。え?映画?あのパタゴニアが?
聞けばパタゴニアが資金を出して、ダム撤去の映画を制作したという。そして制作責任者は創業者のイヴォン・シュイナードだという(後で知ることになるが、この映画を一緒に企画したのはマット・シュテッカーでイヴォン・シュイナードの娘婿だということだ)。
映画の配給をしていると、様々なルートで実に様々な方々が映画配給の相談をくださるのですが、パタゴニアから来るとは驚きでした。以前からパタゴニアは好きで、自分の講演会でも22世紀以後も通用するサステイナブル・カンパニーなどと紹介していました。だって、自分たちの服を「買わないで」とお客に訴える会社なんて他にないですから。「必要」なら買って欲しいが、欲を満たすためには買ってほしくないということなんでしょう。大量消費、大量生産、そして大量なゴミが生み出される現代社会において、パタゴニアのアプローチは持続可能な未来への希望そのものです。
さて、そんなもともと好きだったパタゴニアからの映画オファー。
でもここは、パタゴニアだからといってとてもシビアに映画の内容、時代性、質を見て手がけるかどうかを判断します。
映画名は『ダムネーション』。ダム撤去が題材のドキュメンタリーです。なんか堅苦しいな・・・というのが最初の印象。しかし、映画を取り寄せて、観ると「ずどーーーーーーーーん」と衝撃が走るほど、ぶっ飛びました!「面白い!」「笑える!」「爽快!」そして「学べる!」「日本の活動にも応用できる!」。等々、ピンと来たんですね。
ほとんどの人はダムについて考えることはないでしょう。私自身もその一人でした。小学生の時に社会見学で連れて行かれ、水供給、洪水抑制、発電等の役割を果たし、いかに社会に役だっているかを教えられるままに信じたところで時計が止まったままだったのです。
ところが、そのダムが全米で撤去されつつあるというのです。撤去された数は1912年以後およそ1,150基。撤去のペースは最近増しており、過去20年で約850基ものダムが撤去されたそうです。ダムが撤去されれば、自然な川の流れが取り戻され、生態系が回復する。そりゃそうですね。
『ダムネーション』の制作責任者で、パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードはこう訴えています(ニューヨーク・タイムズ誌に寄稿した論説全文はこちら)。
カリフォルニア州ベンチュラー連邦政府のリストにある8万以上のダムのうち2万6千基以上が、危険性が「高い」または「著しい」と分類されています。多くのダムがその高いコストに対して低い価値しか提供しておらず、いまや相当数がその役割を果たしていません。すべてのダムには限られた寿命しかないのです。米国水力発電協会によれば、アメリカで水力電をおこなっているダムはわずか1,750基です。 多くの場合、水供給、洪水抑制、発電といった、ダムが歴史的に提供してきた利点は、いまでは水域全体を塞き止めずとも、より効果的に得ることが可能です。
ダムは水質を劣化させ、栄養素と堆積物の移動を阻止し、魚や野生動物の生息地を破壊し、沿岸河口に被害を与え、そして周囲の森林から窒素を剥奪することもあります。貯水池もまた、温室効果ガスの重大な排出源になることがあります。
つまり、多くのダムが提供する価値よりもはるかに高い環境コストを課しているのです。それらを撤去することは唯一懸命な対応策です。
『ダムネーション』は長年ダム撤去に情熱を注いできた「ダムバスター」と呼ばれる人々に焦点を当てます。例えば環境活動家マイケル・ヤクバルは、四半世紀も前のことですが、夜中にダムに忍び込んでダムの絶壁にヒビの絵なんかを書いちゃうんですね。
参考:こちらは後日グラインズ・キャニオン・ダムに描かれた「ヒビ」のメッセージ(写真:マイケル・ヤクバル)
「誰が書いたんだ?」「器物破損じゃないか?」「いや何も壊してないじゃない?」「そもそもダムって何で必要なんだ?」
一人のクレイジーな行動が、議論を巻き起こして行った。そして20年以上たった今、彼の行動は常識となった。「非常識」を「常識」に変えたわけです。
そしてダムは撤去されていく。
艀の上に据え付けられた掘削機がグラインズ・キャニオン・ダムを削る。米国史上最大のダム撤去。ワシントン州オリンピック国立公園のエルワ・リバー。映画『ダムネーション』のシーンから。写真:ベン・ナイト
「非常識」を「常識」に変える挑戦者たちの活動から学べることが沢山あります。『ダムネーション』必見です!原発問題、防潮堤の問題、米軍基地問題など様々な問題がありますが、この作品は社会変革を起こしたいすべての人に観て欲しい作品です。次々とレビューが届いています。
これは、あらゆる環境運動に関わっている人々に、あるいは国の現状を憂いてそれを変革しようと小さな足掻きを営んでいる人々に、必ず観てほしい映画である。日本の環境運動に(或いは社会に)、決定的に欠如している「とんちとユーモア」をまざまざと見せつけられる。
– 三宅洋平((仮)ALBATRUS/NAU代表)全文はこちら
今や諸悪の根源は、一人一人の小さな無責任。今を生きる私達が気付き、動き出さなきゃならないんだ!
– 伊勢谷友介(俳優/映画監督/株式会社リバースプロジェクト代表)
「とっぴ」「急進的」「クレイジー」と呼ばれても、勇気のある人の行動が変化を創り出す素晴らしさ。「人間には自然を制御したいという欲求がある」――そして、人間には美しいものを守りたい、不公正は許したくないという欲求もあること。いろいろなことを深く考えさせてくれる映画です。
– 枝廣淳子(幸せ経済社会研究所所長) 全文はこちら
11月22日(土)から東京、横浜、名古屋、大阪と劇場公開が続きます。ぜひご覧ください。
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