来年公開予定のドキュメンタリー映画『DELIKADO』(デリカド、危険を意味する)の現場、フィリピンのパラワン島を訪問しました。違法伐採が続くこの島では、州政府も政府も取り締まりをほぼいていないそうで、NGOが政府にかわって取り締まりを命がけで行っています。生態系が失われ、気候変動にも影響を与える森林伐採の現場で湧き上がって来たのは「痛々しい」という感情です。ここ20年ほどで14人の森林レンジャーたちの命が失われました。それでも活動を続ける強い信念と勇気に感動しました。

以下、Facebookに投稿した内容です。

3月23日

フィリピンの「最後の秘境」パラワン島に来ています。島の北部、エルニドが世界的に有名なダイビングスポットだそうですが、乱開発により原生林が失われていっています。来年、この島で、森や海を守る環境活動家たちにスポットライトをあてたドキュメンタリー「DELIKADO」(危険を意味する)を公開するので、視察やリーダーたちへのインタビューのために来ています。

違法伐採者たちは武装していることもあり、危険が伴う活動です。彼らは、通報を受けて違法伐採の行われている場所へ行き、チェーンソーなどを証拠として差し押さえいます。
チームリーダー、ダドがパラワンNGOネットワーク(PNNI)に加わったのは15年前の2008年。パラワン生まれで以前はツアー会社のドライバーをしていたが、自分にこの仕事は幸せかと問うとそうではないと気づき、8年務めた会社を辞めて、PNNIに入ったそうです。森に入っていくと、水はタダだし美味しいし、空気が綺麗で癒されると話しました。「この仕事はやりがいを感じている」。

しかし団体の財政は厳しく、スタッフの半分は無給のボランティア。ドゥリデスは元々専業農家だったが、近所に採掘会社が採掘を始めた所、川が汚染されて、自分の畑に影響が出た。これが環境活動家になるきっかけだった。1994年から活動を始め、1997年には採掘会社を訴え、今は高裁で争っています。数年前に入ったばかりのボビスは、彼自身が違法伐採者でした。PNNIのメンバーと知り合い、段々と気持ちが変化し、今では違法伐採者を摘発する側になったそう。

PNNIがこれまでに押収した物を見せてもらいました。マングローブを切るナタ、12発を装填できるという手製のライフル銃、そしてチェーンソーなど。数日前に押収したばかりのチェーンソーを持たせてもらったが、重い。これを担いで数時間もジャングルを歩くのだから、重労働です。

怖いと思ったことがありますよねと聞くと、もちろんと微笑みながら返答したのが印象的でした。どれだけの修羅場をくぐり抜けて来たのか、想像に難しい。これまでに殺されたメンバーは14人を数えます。生態系が失われていく最前線で、何が起きているのか?今日はジャングルに同行します。

3月23日

「パラワンは、もう最後の秘境ではなくなった」

口をそろえて皆んなが言っていました。すでに4割の森林がなくなってしまったのです。違法採掘、違法伐採、土地収奪で毎年3000ヘクタールの森が消滅しているのだそう。
生態系が失われていく最前線。痛々しい現場に心がざわついています。視察というか、違法伐採者の摘発への同行。予想以上に険しく、緊迫した状況でしたが無事戻っております。

3月24日

違法伐採されるのは、こんなサイズの木。10年後、このままだと、きっと切られてしまっているだろう。

この日、3ヶ所違法伐採者を確認。1ヶ所は逃亡。

2ヶ所で2個のチェーンソーを差し押さえ。3人全員が、ミンダナオ島から仕事を求めてパラワン島に。企業に雇われているのかと思いきや、彼らは個人でチェーンソーをローンで購入し、木材を売ってローンを返しているのだという。生活がかかっている彼らにレンジャーは優しく話しかけ、最後は握手で終わる。事務所にもどり「話すばかりではなく行動を」と書かれたTシャツをいただいた。

3月24日

最後はマニラに移動して、39のNGOを束ねるパラワンNGOネットワークの代表、ボビー・チャン弁護士へのインタビュー。パラワンで命を狙われているため、現在はマニラで暮らす。学生時代にパラワンのNGOでインターンしたことがきっかけで、生態系や先住民の権利のための活動に奔走。

「もう仲間を失いたくない」

現在までに殺された森林保護レンジャーは14人。本来は政府がやるべき仕事を命懸けでやっている。仲間を奪われ、自身も命を狙われていてもなぜ、続けられるのか?それはカトリック教徒としての信仰心が、勇気を与えてくれるからだそう。恐怖は感じるが、恐怖心を信仰心で打ち破っていると。

今回2つのチェーンソーを没収できたことをとても喜んでいた。もし、没収していなかったら、毎日、誰も止めることなく木が切られ続けられるためだ。来週は、チームが武装者が多く、危険な北部の森へと入るそう。インタビューは、映画のカタログに入れる予定。

3月24日

森から戻って反省会は地元のジンを一つのカップで回し飲み。おつまみは森で出会ったハンターから分けてもらった猪。命懸けで森に入り、助け合う絆を作るために、大切にしている時間だという。全員見事な呑みっぷり。2本目突入時に、皆さんの安全を願いつつお別れしました。


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