いよいよ4月14日(土)から弊社ユナイテッドピープル配給作品として『台北カフェ・ストーリー』がシネマート六本木で劇場公開となります。ドキュメンタリー映画を専門とする弊社が、なぜこのような劇映画を配給するのか疑問に思う方も多いでしょう。僕としても配給するに至るとは、作品と出会った当初、想像すらしていませんでした。実はこの映画は、東日本大震災が起きなければ、日本公開はなかった作品なのです。
『台北カフェ・ストーリー』との出会いは2010年に開催された第15回釜山国際映画祭でした。この時は映画の買い付け目的ではなく、自身が主催するUFPFF国際平和映像祭のための勉強のために参加したのでした。ですから作品を数多く観るよりも、イベント全体の完成度、パンフレットの作り、会場設営方法などを観察していました。
『台北カフェ・ストーリー』は、そういった意味ではなんとなくカフェで「物々交換」するというストーリーに惹かれ観た、全部で10作品ぐらいのうちの一作品でしかありませんでした。それが、観始めた途端に引きこまれていきました。一眼レフの写真をつなぎ合わせたような作品と言いましょうか、一枚一枚の画が兎に角細部まで綺麗なのです。普段はテレビCM監督として活躍するシアオ・ヤーチュアン監督ならではの作風なのでしょう。
そして作品の内容にもどんどんと魅せられていきました。2人の姉妹が台北でカフェをオープンする。カフェのプロモーションのために始めた物々交換交換が人気となり、様々なものが行き来します。お金と違って、お互いに欲しいと思わなければ交換が成立しません。お金を介さないからこそ、不器用に交換が成立していきます。でもその課程で交流が生まれ、人がつながっていきます。また同時に、物にまつわるストーリーも交換していきます。
大量生産・大量消費社会へのアンチテーゼにもなるし、ユナイテッドピープルが配給する意義はあるだろうとは思いましたが、配給を決意するまでには至りませんでした。『幸せの経済学』のような、より直接的なメッセージのあるドキュメンタリー探していたからです。
その後『台北カフェ・ストーリー』が同じく2010年に開催された第23回東京国際映画祭でも上映されることを知り、会場に駆けつけて監督と交流を深めましたが、気持ちは変わりませんでした。
それからさらに数ヶ月の歳月が経過して、一気に気持ちが変化する出来事が起こりました。東日本大震災です。地震、そして大津波は多くの命を奪い、物を破壊しました。その後続いた原発事故によって、空気も、土も、海も汚れ、長い将来に渡り、安心して生活できる基盤が崩れてしまいました。
果たして私たちは何を大切にしてきたのだろう?経済成長のために、何か大切なものを忘れてきたのではないだろうか?何かを置き去りにしてきたのではないだろうか?
そんな自問自答を繰り返すなか『台北カフェ・ストーリー』を思い出したのです。経済的には効果がない、物々交換。でも、人と人がつながっていく物々交換。この映画は、物々交換をストーリーの中心としつつ「私たちにとって、本当に大切なものは?」という問いかけをする映画です。これからのあるべき社会についてのヒントがある映画です。震災後だからこそ多くの方に観て欲しい作品です。どうぞご覧ください。