コンゴ人婦人科医デニ・ムクウェゲ医師の命がけの治療を追ったドキュメンタリー『女を修理する男』をcinemoで取り扱い開始ました。

ムクウェゲ医師は、1998年、紛争の続くコンゴ東部のブカブにてパンジー病院を設立。彼の活動がきっかけで、これまで4万人以上のレイプ被害者を治療し、精神的ケアを施し続けてきました。これまで国連人権賞(2008年)、ヒラリー・クリントン賞(2014年)、サハロフ賞(2014年)などを受賞しました。ノーベル平和賞受賞者の有力候補にも数回挙がっており、2016年5月のタイム誌に、「最も影響力のある100人」に選ばれています。【追記】祝ノーベル平和賞2018受賞!

映画は、彼が命を狙われ、友人でガードマンが銃弾に倒れ、ヨーロッパに家族と避難したものの、彼の帰還を望むコンゴの女性グループの熱意に触発され、命の危険を顧みずにコンゴ民主共和国に戻り、治療やスピーチなどを行う様子を紹介します。

コンゴ戦争が勃発して20年。第二次世界大戦以後、最悪の戦争が起きたコンゴで、命の危険を顧みず、人を治療する以上に、国家を治療しようとする社会変革者ムクウェゲ医師の姿に、ガンジーやキング牧師を重ねました。共通するのは、眼の前で起きている不条理に対処することに留まらず、その根源的な問題を解決するために果敢にも勇気ある行動を行っていることです。

ムクウェゲ医師の場合は、コンゴで性暴力被害にあう女性を次々を治療しながら、やりきれない気持ちになったのだと思います。映画で決定的な「その時」が紹介されていますが、ある日、強姦により生まれたばかりの子供の治療をした時のことです。その子の母親が8歳の時レイプされていたことを知り、かなりのショックを受け、強烈な違和感を感じたそうです。自分の中で変化が生じ、必要なことは行動を起こすことだと決意し、世界に向けて発信を開始したそうです。

紛争が続く理由は豊かな鉱物資源があるからだと氏は指摘します。その鉱物資源は、日本とも無関係ではありません。ぜひ映画『女を修理する男』を観て、コンゴで起きていること、そしてムクウェゲ医師の挑戦を知ってください。

映画『女を修理する男』DVD販売中! 上映者募集中!

コンゴの性暴力と紛争を考える会からのDVD発売に当たってのメッセージを紹介します。

この度、ドキュメンタリー映画『女を修理する男』(原題:The Man who Mends Women)に関心を寄せていただき感謝申し上げます。本映画は、2016年6月から2017年2月まで全国29ヵ所で公開され、約3,000人が鑑賞しました。

「世界のレイプ中心地」とも描写されるコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部。本作品には、1999年、現地に病院を設立して以降、医療、心理の両面で4万人以上の性暴力サバイバーの女性・少女を治療してきたコンゴ人婦人科医デニ・ムクウェゲ医師の活動が描かれています。サバイバーの衝撃的な証言、加害者の不処罰、希望に向かって活動する女性団体、そしてこの悲劇の背景にあるジェンダーに基づく偏見や差別のみならず、「紛争鉱物」(当該鉱物の採掘・流通にともなう利益が政府、あるいは武装勢力によって紛争資金に利用されている鉱物)の実態も描いています。
同氏は、コンゴ東部において鉱物の略奪を目的に軍や武装勢力が、現地の女性・少女に対して組織的な性暴力を犯してきた事実について訴え、女性・少女の人権尊重を求めてきた最初の人物です。その活動が評価され、ノーベル平和賞受賞者の有力候補にも数回挙がっています。

コンゴで起きている紛争は、1994年に隣国ルワンダで虐殺が起きた後、その首謀者がコンゴ東部に越境したことに端を発します。1996年には、ルワンダ虐殺の首謀者の掃討、コンゴのモブツ独裁政権の打倒などの理由から、ルワンダなどが支える反政府勢力がコンゴ東部に介入し、1997年に政権を奪取しました(第1次コンゴ紛争)。反政府勢力の報道官だったローラン・D・カビラ氏は、自身の大統領就任を宣言しました。1998年に、再びルワンダなどの近隣国がコンゴ東部に介入して第2次コンゴ紛争が発生しました。2001年にはL.カビラ大統領が暗殺され、彼の息子のジョセフ・カビラが大統領に就任。2003年に和平合意が結ばれたものの、コンゴ東部では複数の武装勢力による人権侵害が継続し、その間、累計で約600万人という、第二次世界大戦後、世界最悪の犠牲者を生んでいます。

こうした紛争下における性暴力は、社会の混乱の中で個人が犯す性犯罪であると同時に、紛争手段、敵を恐怖に陥れ、支配下に置くための武器として意図的かつ組織的におこなわれることもあります。性暴力は、AK47のような武器と異なり、購入したり、維持管理のための労力を必要としないため、費用がかからず、多くの人々に精神的・身体的なダメージを与えることができます。 豊富な鉱物資源を有するコンゴ東部では、国内外の武装勢力や軍が資源産出地域および流通経路を支配する手段として、性暴力を利用しています。その目的は、 第一に、鉱山の周辺地域の住民に恐怖心を植え付け、弱体化させることです。結果として、住民は不正義に立ち向かう気力を失い、地元の農業や商業も破綻されてしまいます。 第二に、女性の性器に木の枝、棒、びんなどを挿入して生殖機能を破壊し、長期的に現地の人口減少につなげることです。

コンゴ東部の紛争の長期化は、グローバル経済を通じて日本の私たちの暮らしともつながっています。特に紛争資金源として利用されている4鉱物(スズ、タングステン、タンタル、金)は、携帯電話やパソコンなどの電子機器から自動車や航空機にいたるまでの幅広いあらゆる工業製品に使用されています。2010年以降は欧米先進国で紛争鉱物取引規制が広がり始めていますが、まだ十分な効果はみられません。本作品を通して、紛争下の女性・少女に対する性暴力と紛争鉱物、そしてグローバル経済の関係への理解が深まることを願っています。

最後に、日本語DVDの作成にあたり、映画製作会社(ベルギー)、ユナイテッドピープル、クラウドファンディングの支援者と日本映像翻訳アカデミーに感謝の意を申し上げます。

コンゴの性暴力と紛争を考える会*

*本会の活動目的は、本作品の上映やコンゴの性暴力や紛争などに関する研究を通して、本問題に関する認識を広め、その防止策について考えることにあります。

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コンゴの性暴力と紛争を考える会代表、米川正子さん著の『世界最悪の紛争「コンゴ」 (創成社新書)』を読了。

著者は、国連ボランティアとして各国で活動後、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)職員として、ルワンダ、ケニア、コンゴ民主共和国、ジュネーブ本部で勤務。国際協力機構(JICA)を経て、現立教大学特任准教授でコンゴの性暴力をコンゴの性暴力と紛争を考える会代表者。いわば、国際協力の現場を知り尽くしたプロ中のプロ。驚くべき事実を知りました。

いくつかポイントを。

・1996年と1998年の2度戦争があったコンゴ東部。1998年から10年間で、暴力、病気、飢えの犠牲者は540万人にのぼり、これは第2次世界大戦後で最大の犠牲者(これに次ぐのは朝鮮戦争の500万人)

・コンゴがレオポルド王2世の”私有地”だった際の犠牲者は500-800万人。ユダヤ人のホロコーストと同規模なのに世界には知られていない。

・1998年以後のコンゴ東部の女性と少女の性的暴力被害者数は推定20万人(国連人口基金)。犠牲者の年齢は3歳から70歳。

・天然資源の不法搾取が1996年から現在も続いてる(紛争、暴力の原因)

・1960年、ベルギーから独立したコンゴのムルンバ初代首相は、国の豊富な資源を国民のために使うと決断したため、西洋諸国の脅迫にあい、アメリカは彼を共産主義者扱いし、ベルギーと共に暗殺した(爆弾作りにかかせないコルドバは世界でコンゴとソ連にしかないため、アメリカはコンゴに依存していた)。

・コンゴ東部紛争が注目されない理由は?最大の理由は、多くの関係者が入り乱れ、ほとんどが西欧国の指導者や主要メディアと協力関係にあること。関係者は政府役人、政府軍、警察、外国部隊、傭兵、武器商人、多国籍企業、メディア、国際機関、NGO、研究機関と宗教団体と幅広い。その一部や天然資源の不法搾取に直接的あるいは間接的に関わりながら戦争経済で利益を得ている。そのため、メディアは不都合な真実が報道できない。

「いろいろと考えているうちに、過去の経験から、「長期の人道支援が逆に人をだめにしているのではないか
」との疑いをもつようになった。紛争当事国は、国連やNGOといった人道支援機関に頼るため、紛争解決のために不可欠なイニシアティブやオーナーシップをもつことができない。したがって平和も持続しないのである。問題への対応能力を政府や市民にもってもらうために、紛争後は、人道支援の期間をできるだけ短縮し、並行して、できるだけ早い段階でキャパシティ・ディベロップメントを含む開発援助を積極的に進めるべきだ。さらに、紛争解決を目指すことなくただ人道支援で「手当」し続けたり武力で対抗すると、紛争再熱の可能性が高くなる。仲介や対話といった政治的手段を使って紛争解決を進めることに最大限の努力を払うことこそ紛争への適切な対応であり、費用対効果も高く平和状態が維持されるということを、現場での経験と学問を通じて確認できた。」

はじめに より

国際関係、国際協力活動に関心がある人には全員読んでほしい。個人的には、人生で一生大事にして読み返す100冊に殿堂入りしました。

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