2010/09/21
高山病だろう。夜は何度も頭痛で起こされた。脳みそが締め付けられるような痛みだった。事前にネットで学んでおいた対処法をやってみる。口をすぼめて二酸化炭素が完全に出るまでゆっくりと吐く。空になった肺にたっぷりと酸素を取り込む。スポイトの要領で。2秒ほど息を止め、胸に力を入れる。そして、ゆっくりと吐く。こうすると確かに脳まで酸素が届き、ちょっと痛みが和らぐ。そして寝てみるが、また痛みで起きる。

寝不足で起床。立つと痛みがズキンと来る。高山病の治療は、最悪下山するしかないとある。明日にもデリーに飛ばないとまずいかもしれないと考えながら、対処法を調べると、アスピリンが効くとある。ギャッツォにアスピリンはないかと聞くと、あるよとディスピリンが出てきて笑えた。まあ、似たようなもんだろうと飲み、今日がスタートした。

今日は、僕を案内するためにギャッツォが働いているNGOを休んでくれた。親戚のドライバーが一日一緒に同行してくれることになった。例によって料金は先には分からない(笑)。

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まず向かったのは先月の大雨による洪水被害にあった場所だ。一通り案内してもらった。訪問先の家のひとつはギャッツォの従兄弟の家で、一階のほとんどが土砂で埋まり、ちょうど土砂を外に出す作業をやっているところだった。

8月の洪水による被害者は、死者が約200名。行方不明者は400名という。雨のあまり降らない乾燥地帯のラダックで、大雨でこのような洪水が起こったことは歴史上始めてのことだという。これも地球規模の温暖化の影響なのかもしれない。

近所の村の人たちが、特に女性たちが、復興のためボランティアに励んでいたことが印象的だった。被災家族が一時的に暮らすテント村にも訪問した。すべてを失い、ギャッツォに泣きつく女性がいた。何も出来ない自分がいて虚しかった。ラダックは10月以後急速に寒くなる。テントではなく冬を越せる住居の建設が急がれる。早期の復興をお祈りします。

その後、孝道山から紹介して頂いたご友人で、ラダックで女性の尼さんたちのための支援、仏教教育と一般人のためのクリニックを運営しているパルモさんにお話を聞きにいきました。パルモさんが、自分たちはソーシャルワーカーとして活動しているとおっしゃっていることが印象的だった。仏教とは悟りを得るために修行をするものと思っていたが、それは先入観だったのかもしれない。

パルモさんのグループは、チベットから伝わった伝統的医療を学び、一般人のためのクリニックを一年前から運営している。実践的仏教というんだろうか。大変感銘を受けた。

パルモさんからの教えをメモ書きしておく。

人間の心は猿の動きのようなもの。毎秒どこかに飛びたがっている。その心をコントロールして、自分が行かせたいところに行かせられるように修行しなければいけない。

人は皆、怒りや悲しみなどの心の動きがある。もし、誰かにネガティブな、攻撃的な言葉を向けられたら、それを感じ取り、盾を用意しなさい。何をするにしても批判はつきもの。どんな批判や、人の悩みも受け入れられるようになったら、あなたはずっと幸せでいられます。

毎日15分間でいいから、メディテーション(瞑想)をしなさい。テレビを消して、携帯の電源を切るんです。静寂の中、あなたの心の声を聞きなさい。その中には、無くさなければいけない毒もあるかもしれません。

お酒や名声や物欲など、一時的にしか心を満たしてくれないことからは距離を起きなさい。それらは一時的には良くても、すぐに効果が失われます。そういったものは概して塩の味がするしょっぱいもので、後味の悪いものです。何が本当にあなたに必要か、本質を考えるのです。

パルモさんメッセージ

明日は、ヘレナが始めたNGO、Ledegを訪問する予定です。

2010/09/22
「ディスピリン」の効果か、今朝は頭痛が和らいでいる。
昨晩もギャッツォの家族全員と一緒に晩ご飯をいただいた。息子のタシ、タシお爺さん、そしてギャッツォと奥さんのアンモ。庭で採れた野菜を中心にオーガニック料理を出してくれる。どれも美味しく体が内側から綺麗になっていく感じがする料理だ。

夕食時にタシお爺さんの教えを聞くことが習慣になってきた。昨晩はこんな話があった。

「ある時、狩人が森に入っていき、森の中で動く動物に向けて一本の矢を放った。その矢は命中したが、その矢を受けたのは人間の女性だった。狩人はあわてふためいている。これを見た人がいる。彼は何をすべきだろうか。すぐ女性に駆け寄って、矢を抜いて止血することだろうか。それとも近所の人に「犯人を見た」とか警察に犯人を連行することだろうか。答えは明らかでその女性に駆け寄り手当をすることだ。しかし往々にして人間はすべき行動をしないことがある。

仏陀の教えでは、余計な心配をせずに今起きていることに集中しなさいとある。たとえば神が存在するしないということを心配するよりも、今を大切に生きるのです。人間は貧困家庭で生まれることもあるし、裕福な家庭で生まれることもある。早死するものもいれば、長生きするものもいる。これらは前世の行いと関係しているのです。今の社会や他人を非難するのではなく、自分の人生に責任を持ち、大切に生きることが重要です」

タシお爺さんが床に就き、ギャッツォと明日の予定について話していると、「王様に会うか?」という。

「王様と友だちなんだよ。それにアンモ(妻)は王様と親戚なんだよ」

ということで王様に会えるかもしれない。
ギャッツォは今日も僕のために半休してくれた。明日は全休。こんなに休んで大丈夫なのだろうか。

* * *

朝から調子は絶好調。ようやく高度に完全に順応できたみたいだ。
今朝はギャッツォが午前中、仕事のため、午前中は一人で行動した。ヘレナに訪問を推薦されていた、LEDeG(Ladakh Ecological Development Group)にまずはアポなし訪問。LEDeGは1981年に活動を開始している。現在のスタッフ数はおよそ50人。これまでに数々の賞を受賞。ダライラマ法王の訪問も受けている。代表のハスナインさんに会いたいといと、あいにくラダックに帰ってくるのが僕がラダックを離れる日で会うことが出来なかった。

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スタッフにLEDeG施設内を一通り案内してもらった。LEDeGは、伝統的な文化を守りながらエコロジカルでサステイナブルな開発を推進する団体。太陽光エネルギーを使った発電やヒーティングシステムや小水力発電システムなどをラダックの村々に導入を進めている。また、地方でも暮らしていけるよう家庭の収入を増やすための女性を対象とした職業訓練も行っている。帽子、服、バッグなどの制作指導をして、それらをLEDeGが買い上げ、LEDeGが運営する直営店で売るシステムになっている。

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ダライ・ラマ法王の訪問を受け、案内するヘレナ。

LEDeGの後はWomen’s Alliance of Ladakhを訪問。この団体はラダックの伝統文化の維持、保存を女性をサポートすることで実現することをミッションとしている。ここは特にいいインプットはなかった。

この日はその後、ANCIENT PALECE、故宮殿とでも言おうか、を訪問。そして、Stok Palece Museumへ。この美術館に坂本龍一さん写真が飾られていた。有名な日本の作曲家とだけ説明されていた。この美術館の側に王宮があるのだが、残念ながら王様は不在で会うことが出来なかった。

最後にSECMOLという団体を訪問した。SECMOLではオルタナティブな高校で、高校の試験に失敗したいわゆるドロップアウトした高校生ぐらいの生徒が40名ほど共同生活している。英語教育が受けられることと、持続可能なライフスタイルを学べることが特徴だ。全施設のエネルギーは太陽光発電でまかない、大型のソーラークッカーを備えている。広大な土地で農業も生徒たちがやっており、育った野菜を使って料理するのも生徒だし、牛の面倒を見るのも生徒。必ず何かの責任を任され、社会人としても成長する場になっている。1年から2年学んだ後、もとの村に戻ることになっている。

SECMOLはラダックの町から車で崖を縫うようにして50分ぐらい行った僻地にある。ここまで隔離されていると、社会から取り残されて、社会順応が逆に出来なくなるのではないかとも心配になった。それを意識してか、毎晩必ずラダックの地方ラジオを聞く時間があり、誰かが聞いたニュースについて発言しなければならない時間があるそうだ。また、このような隔離された場所だが、世界各地からボランィテアが集まっており、居ながらにして世界とつながる環境ともいえる。インターネットもつながる。SECMOLを案内してくれた学生が、わずか1年で英語をマスターしていたのには驚いた。英語を学びたいなら、ここに1年ボランティアすれば習得出来てしまうかもしれない。


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